「高レベル放射性廃液」が「高レベル」でも「廃液」でもなくなる。
核種分離技術と医療応用技術の研究。
環境負荷低減と資源・エネルギーの効率的利用という両面を満たす持続可能な社会の実現を目指して
原子力エネルギーとその持続的な利用を可能とする原子燃料サイクルは優れたエネルギー資源として我々の生活に大きな恩恵をもたらしました。しかし、使用済核燃料の再処理工程からは「核のゴミ」とも言われる非常に高い放射能や長半減期の核種を多量に含む高レベル放射性廃液(HLLW)が発生します。このHLLW中には核分裂などによって生成した様々な核種が存在しており、これらを一括してガラス固化して地層処分することが計画されていますが、処分場の選定や長期管理、環境への影響などの課題があります。ところが、核のゴミを分別し、貴重なものは回収して資源化することで、放射性廃棄物の減量とその毒性の低減、含まれている核種ごとの特性に合わせた合理的な処分法の適用、さらにラジオアイソトープ(RI)や希少元素の供給源としての付加価値を与えることが可能になると考えられています。
本研究室では、HLLWの減量と毒性の低減を達成して環境負荷を大幅に低減するための処理法として革新的な核種分離プロセスを開発する分離技術研究と、分離された有用なRIを医療等に利用する医療応用技術研究を中心に研究を行っています。分離技術研究は、HLLW中に含まれている核種をその特性によって、セシウム、ストロンチウムなどの発熱性核種、ルテニウムなどの白金族元素、アメリシウムなどのマイナーアクチニド(MA)のように分類し、それぞれに対して高い吸着選択性を有する新規吸着材の開発と評価を行っています。また、セシウム、ストロンチウムの熱源、線源としての利用、白金族元素の資源利用なども模索しています。医療応用技術研究では、がんの放射線内部照射治療に利用する放射性薬剤の原料となるRIの新規精製プロセスとして、HLLWから分離されたストロンチウム-90の娘核種であるイットリウム-90を利用するためのプロセスの実証を進めています。
このように我々は、HLLWの環境負荷を大幅に低減し、さらに21世紀の人類が直面している重篤疾患を克服するための安定したRI供給・利用システムを構築するための研究に取り組んでいます。